一通の手紙を添えて最後の献本をした後に、私の元に届いたメッセージ【神野藍】
神野藍 新連載「揺蕩と偏愛」#12
◾️ようやく手元に帰ってきた言葉
ここ数ヶ月、次の場所に向かう準備が進んだことや新しく関係を結んだ人間のおかげもあって、私が纏っていた分厚い皮を選択的に剥がし、巣穴に閉じこもっていた怪物はいつの間にか陽の光を眩しそうに見上げていた。ただ、少しずつ変化が訪れる中で、影を落とした記憶はより一層濃くなるばかり。
最後まで自分勝手だな、というのは承知の上で、長らく本棚に置いてあった紺色の本を手に取り、大きな封筒の中に詰め込んだ。
数日前、私の元に届いたのは返送されてきた封筒ではなく、一通のメッセージだった。
今の私なら、すんなり言葉を言葉のままで受け取れていた。これが許しなのかは分からないけれど、24歳のあの日に渡した言葉がようやく手元に帰ってきた。それと同時に遠くのどこかに味方が一人増えたような気がした。
どうか、幸せが降り注ぎますように。
そう静かに祈って、元の世界に戻っていく。隣で私の手を握ってくれる人がいて、私自身もようやく、私を支え始めている。私の世界にも光が差し込んできたようだ。
文:神野藍
KEYWORDS:
【石田健さん×神野藍さん W刊行記念対談】
本屋B&Bにて 8/19(火)19時〜
W刊行記念対談「キャラクターとして生きる」
https://bb250819a.peatix.com
✴︎石田健『カウンターエリート』(文藝春秋)
✴︎神野藍『私をほどく AV女優「渡辺まお」回顧録』(ベストセラーズ)
W刊行記念!令和に誕生した新鋭の論客と文筆家の異色対談です!
✴︎KKベストセラーズ 新刊✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
絶賛発売中!
✴︎
「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛!衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに